アマゾンさんと訪れた、渡波第一団地と第二団地。
日本晴れそのものでした。
毎週一回やってくるという、八百屋さんの巡回販売。
霧雨に服が濡れるのもいとわず、押し車に体重を預けたおばあちゃんは、
部屋の前のスロープを行ったり来たり。
「八百屋さんが来るのよ」
落ち着きなく視線を左右に走らせると、集会所の方へ首を伸ばします。
「何時ころ来るんですか?」
「いつもは、十一時なんだけどねえ」
おばあちゃんはそう言うと、おぼつかない足取りでスロープをおりていきます。
時計を見ると、十時五十分。
「雨で濡れちゃいますよ。八百屋さんが来たら知らせに行くので、お部屋で待っていてください」
うんうんと、何度もうなずくおばあちゃん。
僕の言葉は耳に届いているはずなのに、おばあちゃんは、
なおもスロープをおりていこうとします。
団地の入口を眺めていても、それらしい車がやって来る気配はまるでありません。
「雨に濡れたら、風邪をひいちゃいますよ」
何回かのやりとりのあと、おばあちゃんは寂しそうに眉根を寄せて、
集会所の方を振り返りながら、とぼとぼと部屋に帰っていきました。
車からおりた女性が、野菜の箱を手際よくおろし始めます。
先ほどのおばあちゃんに八百屋さんが来たことを知らせにいくと、途端に表情が輝きました。
あちこちの棟から、おばあちゃんたちがやって来ます。
白いワンボックスに、あっと言う間に人だかりができました。
品揃えならば、イオンが豊富なのに。
おばあちゃんたちは笑顔で、時に大声で、仲良く野菜を選んでいます。
まるで、そこが集会所みたいです。
ふと、押し車のおばあちゃんの、そわそわした素振りが思い浮かびました。
買い物の楽しさももちろんあるのでしょうが、それだけではない、もっと別の何かがあるーー。
そこに行けば、必ず誰かに出会える場所。
自分一人だけの笑顔ではなく、誰かと誰かの笑顔がつながる場所。
集会所でも八百屋さんでもいいけれど、そんな場所がもっと増えていけば、
きっと、
みんなの暮らしがより穏やかになるのだろうと、しみじみと感じた一日でした。
へんりぃ